Chihei Hatakeyama
デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築する美しいアンビエント&ドローン作品で世界から高い評価を得ているChihei Hatakeyama。2006年に『Minima Moralia』でデビューし、2010年にはWhite Paddy Mountainレーベルを立ち上げ、ミックス/マスタリングを手掛けたアーティスト作品もリリース。また、2017年Spotifyランキングでは海外で最も再生された国内アーティストTOP 10にランクインするなどグローバルに活動しています。そんなChihei Hatakeyama氏の創作活動の中心となるのがPreSonusのStudio One。残響が見通せる3Dの様な高解像度サウンドが魅力と語るChihei Hatakeyama氏に、SWITCHした理由やマスタリング・テクニックを独占インタビュー。
“自然に提示できる音楽がアンビエントやドローンだった”
メイン・フロアの音楽よりも、サブ・フロアの音楽の方が良いなと思った
高校に入った時に何か新しいことを始めるのも良いと思って、たまたまロック同好会があったので入会してギターを始めました。なぜギターだったかと言うと、当時はまだバンドの知識が全く無かったので、ギターしか知らなかったのです..。それで友達とバンドを組んで日本のロックからコピーを始めて、先輩にスラッシュ・メタルを教えてもらい、2年生位からはメタルのコピーをやりましたね。メタリカ、セパルトゥラ、パンテラとか一生懸命速弾きの練習などを..。ギタリストは、ランディー・ローズが一番好きでしたね。
大学に入ってからもギターは続けていましたが、メタルではない新しいことをやりたいなと思って、打ち込みをやっているサークルに入りました。そこで先輩に色々教えてもらったのが最初ですね。シンセサイザーは、JP-8000を借りて初めて使ってみましたが、初心者には難しくて使いこなせなくて..。それで簡単そうなQY20を買って打ち込みを始めました。その後、サンプラーが欲しくなったのでW-30を知り合いから安く譲ってもらって、出来上がった曲はカセットMTRに録ったりして..。その後、QY20もW-30も手放してしまったので、今思うと惜しいことをしたなと思います。
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2台のStudio Oneをメインとした制作デスク
PowerBookを手に入れた頃から色々なタイプの音楽を聴くようになって、当時はドローン・ミュージックのアーティストが出始めた時期でした。例えばウィリアム・バシンスキーとかKranky周辺の人達とか。そういった人達に影響を受けて自分でも作り始めた感じですね。でも当時は、アンビエント、ドローンといった括りは未だ無く、全てエレクトロニカと呼ばれていたような気がします。
当時は、曲を作るよりも、音を作る方が楽しかった。自分が作った音色を、自然に提示できる音楽がアンビエントやドローンだったのだと思いますね。でも、アンビエントとドローンって今は一緒の括りになってしまっていますが、元々は出発点が違う音楽です。アンビエントはブライアン・イーノが提示した環境音楽の流れを汲んだ音楽で、ドローンはアメリカの実験音楽の流れを汲んだ音楽。オールド・スクールなドローンは、聴いていて気持ちが良いというところにフォーカスしていなくて、本当に実験のための音楽。そしてドローン・アーティストは、スピリチュアル系の人が多い印象ですね。今でもドローン・ミュージックのゴッドファーザーは、ラ・モンテ・ヤングだと思いますけど、彼はインド音楽にもかなりハマっていましたし、アナログ・シンセサイザーでドローンをやるエリアーヌ・ラディーグも仏教系で、かなりスピリチュアルですよね。ドローンの最初のフックとして、インド音楽からの影響というのが大きいのではないかと思っています。
“雪解け水のような透き通った音がする”
Studio Oneは雪解け水のような濁りのない透き通った音がする
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モジュラーをプレイするChihei Hatakeyama氏
これまで、Cubase、Nuendo、Pro Tools、Digital Performerなど色々使ったりしてみましたが、サウンド&レコーディング・マガジンでStudio Oneバージョン2の特集記事が組まれていて、早速試してみたらその音の良さに衝撃を受けてしまって..。当時はマスタリング用にはPeakを使っていて、音が良いソフトウェアだなと思っていましたが、Studio Oneのサウンドはそれ以上でした。
当時、録音の実験みたいなのをしていて、マイクプリの組み合わせや、コンプレッサーの組み合わせなど色々研究していて、その中で手に入るソフトウェアも比べていたんですけど、Studio Oneは良いのは勿論ですけど、解像度が結構良かったんで、濁りのない音と言うか、透き通った音と言うか、音が3Dの様にとても立体的。原音に忠実で、部屋の残響やボーカルの細かいニュアンスなどもしっかり捕らえてくれる。褒めすぎかもしれませんけど、富士山の雪解け水のような濁りのない透き通った音でしたね。これまでの作品データもあるので、3ヶ月位のタームでStudio Oneに完全SWITCHしました。
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Studio Oneのアナライザー・プラグインが一番のお気に入りと語るChihei Hatakeyama氏
自分の曲を作るだけだったら、どんな音のDAWでもいいと思いますが、仕事としてミックスやマスタリングを行う場合は、自分がやっていて信頼できるって凄い大事じゃないですか。Studio Oneを使うことによって“この音こうだったっけ?”みたいな不安に駆られることが無くなったので、ストレスが1つ減りましたよね。最近はマスタリングだけでなくミックスの仕事も増えていますが、クライアントのファイルを単にStudio Oneに移すだけで音の奥行き感が全然違う。音場や定位感も正しく感じるので、今はミックスもマスタリングも全てStudio Oneで行なっていますよ。
Studio Oneで一番好きなのはアナライザー系なんですね。反応も凄く早いです。位相メーターも毎日の様に使っていますし、後はスペクトラム・アナライザーですね。ミックスとかマスタリングの時に無くてはならいないツールというか..。最終的には耳で判断するわけですけど、最も音が集中してしまう100Hzから200Hz辺りの処理は耳だけで判断するのが難しい場合もあるので、そんな時にスペクトラム・アナライザーを使えば、どの部分にピークがきているのか視覚的に判別することができる。このアナライザーは、マスタリングだけでなくミックスの時も活躍しています。
また、ショートカットを自由に設定できる所も気に入っています。制作ではひたすら波形編集をすることも多いので、波形表示の縦軸/横軸のズームを自分が一番使い易いように設定しています。これだけでも波形編集のスピードがかなり変わってきますからね。
“再生面での音質も信頼できる”
再生面での音質も信頼できる、だから2台のS1でマスタリングする
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アナログ・シンセサイザー、ギター、ストンプ、アウトボード、各種コンバーターなどデジタル/アナログ機材を多数保有するプライベート・スタジオ
マスタリングのワークフローは特殊なやり方だとは思いますが、2台のStudio Oneを使うやり方で、1台のStudio Oneを走らせて、アウトボードを通して、もう一台のStudio Oneに入れる感じです。それは、Studio Oneの再生面での音の良さも信頼しているからです。
クライアントには、2ミックスのWAVファイルをサンプル・レートやビット・レゾリューションは変換せずにそのまま送ってもらうようにしています。こちらはどんなフォーマットにも対応できますし、なるべくそのままの状態で送ってくださいと言っていますね。リミッターは外してもらうことが多いですが、クラブ系の音楽ですとそういったエフェクトも音色の一部だったりしますから、そういう場合はそのままにしてもらって。
そして再生用のStudio Oneにファイルをインポートしてプレイバックするわけですが、必要に応じてPro EQを使います。再生用Studio OneのDAコンバーターはLavry Engineering DA11で、Manley Variable MuやAPI 2500といったアウトボードを通します。そして、録音用のStudio Oneに入力するのですが、ADコンバーターはCrane Song HEDD-192で、その際に内蔵のプロセッサーを使用して倍音をコントロールすることも多いですね。真空管やテープのイミュレーション機能が入っているので、そこで音にテイストを付ける感じです。そしてAES/EBUでFireface UFXを経由してStudio Oneに取り込みます。録音時のフォーマットは、ハイレゾが必要な場合は24bit/96kHzで、CDしか出さないという場合は16bit/44.1kHzですね。そして最後はStudio One側でプラグイン処理をするという流れです。
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Orville by GibsonフライングVを始めとしたギターとストンプの数々
マスタリングのポイントとしては、クライアントがどんな音を求めているのかを把握するのが一番重要だと思います。6〜7年位マスタリングをやっていますが、やり始めた当初はクライアントがどんな音を求めているのかを探るのに苦労しました。なのでオーダー・シートのような指示書を用意したこともありましたが、的確な指示ができない人には逆効果だったりして..。それ以降は、メールの文面や好きな音楽などから求めているサウンドを探るようになりました。オンライン・マスタリングの場合にはクライアントの顔は見えないのですが、メールの文面からも欲している音が伝わってくるんです。もちろん、具体的にこういうサウンドにしたいというのがあれば、その作品名を訊いたりして。今はこのやり方で大分上手くいくようになっていますね。
Studio Oneの良さって、音楽制作に必要な機能がバランスよく入っているところだと思います。今の時代だと、曲作りからミックス、そしてマスタリングまで自分一人でやると思いますが、Studio Oneだと全部がバランス良く入っているので、宅録の人とか、バンドで音源を作りたい人とか、ライブハウスで売る様なものを作りたい人とか、この1台あれば安心だと思います。
ドローン・リミックスを特別提供
Chihei Hatakeyama氏がマスタリングを手掛けたFamily Basikの2ndアルバム『Golem Effect』収録曲を特別にドローン・リミックス。そのマルチトラック・ファイルをStudio Oneオーナーへ提供。さらに、本楽曲データを使用してリミックス & Sound Cloudで公開することも可能です。
[Studio Oneマルチトラック・ファイルをGET]
Chihei Hatakeyama
Chihei HatakeyamaとしてKrankyより、ファーストソロアルバムをリリース。以後世界中のレーベルから現在にいたるまで10作品以上発表。デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築するアンビエント・ドローン作品が特徴。現在はレーベルWhite Paddy Mountainの運営やマスタリング・録音エンジニアとしても活躍。
[Chihei Hatakeyama公式サイト]
[White Paddy Mountainレーベル]
[WPM Mastering]