—— 近年ネットラジオを聴いている方も増えていると思いますが
樋口氏:JJazz.Netは2000年から始めたストリーミング形式のネットラジオなのですが、当初はネット環境のスピードが十分ではなく、ストリーミング・スタイル自体は時期が早過ぎたと思います。しかしここ5、6年でネット環境が整い、ネットラジオが注目を浴びています。僕らは高音質とストリーミングということにスタート時からこだわっているのですが、高音質といってもスタート当初は紹介する元となる音源がCDのみでしたので、16Bit 44.1kHzを超えられないんですね。
それを超えられる方法は何かと考えた時に「ライブ録音」というアイデアが浮かびました。自分達でライブを収録する、それも16Bit 44.1kHzを超える高いレベルで収録する。そういった経緯で、ライブ演奏を24Bit 96kHzで収録することを始めました。もちろん収録音源をそのまま流せるわけではないですが、元の音質が良ければ圧縮しても音質が良いと考えました。その他にも、ミュージシャンはCDの曲をライブで披露するわけですけど、ライブでの演奏の方がまた違った意味で良かったりもするので、それを紹介する狙いもありました。
これらの高音質ライブ録音を普段のワークフローとして実現可能とするのがDAWだったんです。CPUパワーも年々追いついて来たので、5年程前からオーディオ・インターフェース、ノートパソコン、数本のマイクを会場に持ち込み、24Bit 96kHzでの収録の経験を重ねていって今に至っています。リスナー側のネット環境と、制作側のモバイル録音スタイルが両立できたことによって、ライブを高音質で収録して配信することが始まったのです。もちろん、自分達でも収録しますし、それを手伝ってくれるエンジニアさんも数名いらっしゃいます。
—— 山田さんへオファーした切っ掛けは
樋口氏:今回山田さんにお願いしたのは、山田さんが録音/ミックスされた「けもの」というアーティストのライブ音源を聴かせていただいたことが切っ掛けです。素晴らしいサウンドでしたし、僕らがやりたいことを理解して頂けると思いましたのでオファーさせていただきました。
山田さんはPreSonus Storyで紹介されている様に、スタイルとしてライブ録音をされているのでワークフローが確立されていますし、番組は毎月更新なのでコンセンサスをとるのに時間がかかると仕事としてまわらないんです。そこもオファーの大きな理由ですね。
5年程ライブ収録をやっていますが、やはりトラブルはあります。音の振動でハードディスクが止まったりだとか、会場での収録場所取りとか..。だから経験値を持っている方じゃないとこの様な仕事は難しいと思います。山田さんの使っていらっしゃる機材やミックスされている環境を拝見しても申し分ないと思いました。
—— ジルデコさんの収録はどの様に行われたのでしょう
樋口氏:今回のジルデコさんの収録は96kHzではないのですが、山田さんはミックスの段階でハードウェア・インサートを利用してアウトボードを使われるので、最終的に96kHzでTDしています。収録は卓前からの分配ですが、それだけでは足りなかったのでピアノやドラムに追加で何本かマイクを立てて収録しました。そして臨場感のためにアンビエンスのマイクも立てています。
山田さんのセットアップは、僕らがやってきたスタイルと一緒だったので、ライブをコンパクトに臨場感豊かに高音質で録るとなるとこのスタイルに落ち着いて行くのだと、僕らにとっても改めての確認になりましたね。この前の収録光景を見ていて凄く良いなと思ったのが、PreSonusの製品は入力端子が全てフロントに用意されているじゃないですか。これが凄く良いなと思いました。現場は暗いですから。
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—— 収録後のミックスなどはどのように進められたのですか
樋口氏:ジルデコさん立ち会いで、山田さんのスタジオでのミックス・チェックがありまして、そこで聴かせてもらいました。手直しもなく、録音された作品としてジルデコさんも満足されていました。ライブの時にジルデコさんの演奏確認用のために2ミックスも別で録っていたのですが、それをジルデコさんが聴いた時に抱いていた質感とかの不安な要素が、山田さんのミックスで解消されていたとおっしゃっていましたね。もし、2ミックスのままだったら手直しを依頼しようと思っていたそうです。
やはり、この様な対応はマルチチャンネルで録っていることと、山田さんの感性/センスで可能なのだと思います。山田さんからミックス作業に入る前に、ライブ感を重視するのか、スタジオ録音感を重視するのかの確認がありました。僕らはいつもライブ感を重視はしているのですが、それを重視するあまりにバランスが悪くなったり楽曲の良さが分かってもらえなくなるのも困るので、中途半端な言い方ですけど半分半分でとお願いしました。客席で聴いている要素と、目の前で聴いている要素をうまくバランスをとってもらいたいとリクエストしたんです。
もちろん、ライブ会場で実際聴いている音と、録音された音は違うとは思います。それにミックスの仕上がりは、ミュージシャンの希望によっても違ってきます。専任のPAさんを起用して、その方のサウンドに全信頼を寄せているというミュージシャンもいらっしゃるので、その場合は会場で聴こえる音重視して、アンビエンスの2ミックスをメインに使用します。その辺は、臨機応変にミュージシャンのリクエストに応える形でやっています。
—— 現在のワークフローであれば即日配信の可能性も見えてきますが
樋口氏:今回は、ライブから1週間程で納品でしたのでかなり早かったですね。ミュージシャン、エンジニア、そして僕らとのスケジュール調整は大変ですが、現在のシステムやワークフローですと、ライブ後すぐにオンエアーすることも夢ではないですね。ただ、僕らの場合は番組の体裁にしているので、ライブ音源とは別にナレーションの収録やジングルの挿入があるので、なかなか現実的ではないかもしれませんが。
—— ライブ音源は音がよくないと偏見を持っている方もいると思いますが
樋口氏:映像に付けるために収録された音源だったり、アルバムのボーナス・トラックに使用されるようなおまけ的なライブ音源に対する偏見はあると思います。でも、JJazz.Netのリスナーの多くの方にはライブ音源を喜んでいただいています。現状として、ライブはどうしても東京中心で行われるので、僕らが収録しオンデマンドでストリーミング配信することによって、地方の方にも間接的にライブを聴く、体感する機会を提供できているようです。そしてその機会を高音質によって最高のものにしてもらえたらと思っています。
僕らは、高音質に希望を感じています。高音質であって悪いことは何もないと思うんですよ。もちろん、ローファイであることが必要な音楽もありますが、ローファイを高音質表現することもできると思うんです。逆説的ですが。ライブ会場の空気感を表現するのにも高音質が大きな役割を担っていると思います。音楽をより豊かに楽しむためという視点で、高音質をどんどん突き詰めていきたいですね。
—— iPhoneやiPadにも対応されたと伺いましたが
樋口氏:4月にプレイヤーをアップデートしたのでスマートフォンやタブレットでも聴けるようになりました。3G回線でも問題なくストリーミングできるのも確認しています。ファイル圧縮はAACで、HTML5が使える端末に関してはHTML5で再生され、HTML5に対応していない端末では自動的にFlashで再生されます。情報量が多くワイドレンジなソースからAAC圧縮にするので、手前味噌ですがやはり音が良いと思います。もちろん回線の速度によって音質は可変されていますが、元のファイルが他のネットラジオと比べて良いですからね。実際に他のネットラジオと聴き比べてもらえれば、音が良いなと実感してもらえると思います。
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