—— Mac版の開発を手掛けるようになった切っ掛けとは
オリジナルのMaxプログラムは、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)のミラー・パケットにより開発されました。彼は、IRCAMのシンセサイザー4XをコントロールするMIDIを生成するためにこのプログラムを書きました。1986年に私が初めてこのソフトウェアに出会ったとき、彼は作曲家フィリップ・マヌリと一緒に仕事をしていて、フィリップが特定の3つのノートをMIDIピアノで再生すると、4Xから素晴らしいサウンドがトリガーされる様子を見せてもらいました。別のノートを再生した時は何も起きない。これは素晴らしいアイデアだと感じましたね。それから数年後、このソフトウェアに、現在のバージョンにも見られるスライダーとナンバーボックスが追加されたのです。
Max開発における私の興味は、Opcode Systems社やIntelligent Music社での仕事で私が開発したいくつかの音楽ソフトウェア技術を組み込むことにありました。例えば、オペレーティング・システムがこういった機能を実行するようデザインされる前の話ですが、ユーザー・インターフェースの操作などの他の動作を実行しながら音楽を正確に再生する機能や、新しいプラグインのロード機能などです。また、これまで考えていたユーザー・インターフェースのアイデアのいくつかをMaxに応用できるのではないかとも思っていました。彼は、よりシンプルなインター・フェースを望んでいましたが、私の望む機能を加えることには反対しませんでしたね。
—— Maxにどのような印象を持っていましたか
Maxを初めて見た時、実行したい操作がシンプルかつ分かりやすく行えるソフトウェアだと感じました。tableオブジェクトなど特にそうです。シンプルですが、未だに一番のお気に入りですね。Maxは、Mの様なソフトウェアを記述するのに非常に便利なツール・セットのようなもの。しかしMと異なるのは、開発者の作業の終点がソフトウェアの終点ではない点です。例えば誰かにMを見せた時、「いいね、それじゃこれはできる?」と言われたとすると、その機能が内蔵されていない場合には、「できない」と言うしかありません。でもMaxなら「できるよ、その機能を自分で作ればいい」と言えるのです。
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—— Maxを自身の会社であるCycling '74で発売することになったのは
Cycling '74はMSPの販売を目的にスタートしました。当初、MSPはオーディオDSPに焦点を当てたMaxのアドオンとして開発され、その後MSPとMaxをバンドルして販売するようになり、Opcode Systems社が活動を停止した後にMaxの販売権を得ました。私は事業を営む家庭に生まれ育ったのですが、個人的には会社経営よりも新製品の開発に興味がありました。しかし、MSPを開発した時、たとえ右も左も分からない状態であろうと、新しい会社をスタートさせることは意味のあることに思えました。14年間もMax開発を継続できたことは、幸運としか言いようがありません。これほど長い間成功を収めることができると考えた人はいなかったと思います。
—— 90年代終わりにMSPがリリースされましたが、MSP開発のスタート・ポイントとは
MSPは、DSPパッチのグラフィック表示を、サウンドを作成する何かに変換させます。MSPは2つのコンポーネントから構成され、ひとつは変換を行う「シグナル・コンパイラー」です。オリジナルのシグナル・コンパイラーは、ミラー・パケットがPd用に記述したものがベースとなっていますが、Max 6ではDSPパッチ編集時にクリックなしでクロスフェードする機能などのパワフルな新機能をいくつか搭載したシグナルコンパイラーを新たに記述しています。
もうひとつのコンポーネントは、オーディオ・オブジェクトのセットです。これらのオブジェクトのデザインは、彼がIRCAMで開発したISPW用のオーディオ・バージョンのMaxのオブジェクトをある程度元にしていますが、かなりの変更や追加がなされています。このソフトウェアの開発に初めて取りかかった時は、非常に実りの多い時間を過ごせました。彼が作成したコンパイラーとオブジェクトの基本概念を理解できた瞬間、これには夢中になれそうだとピンときましたね。
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