個人的にスタジオ・モニター・ヘッドホンは、ものすごく思い入れのある製品ジャンルです。その理由は、アーティストやエンジニアが、現場でその音を確認するために使っているから。つまりモニター・スピーカーと同様に、モニター・ヘッドフォンで聴く音は「アーティストに近づくことができる音」と捉えています。
Austrian Audioについてはここ最近、マイクのOC818等がさまざまなレコーディング現場で使用されていることをYouTubeやメディアの記事で目にしていました。その印象は、とにかく最先端。とにかく一人のオーディオ・ファンとしてもワクワクしてしまうような、そんな想像を掻き立てられていたんです。
だからヘッドフォンのHi-X55/X50が日本でも出ると聞いた時には、「早く音を聞いてみたい! 絶対間違いないはずだ!」とウキウキしてしまって、ついにその音を聴くことができたと言うわけです。
ファースト・インプレッションは、とにかく音楽を構成するそれぞれの音がはっきりと耳に届いてくるな、というものでした。全帯域にわたって、とにかくストレートでフラット。収録された場所がデッドだったのか、ライブだったのか、といった空間情報の描写をはじめ、このような無色透明なサウンドを聴かせてくれるヘッドホンにはなかなか出会うことができないと思います。
特に印象的なのは低域。いまのヘッドホン市場ではある種の聴きやすさが求められるので、良い意味で意図的に低域の量感をコントロールしている製品が多い印象を持っているのですが、Austrian Audioのサウンドは聴きやすさ等ではなく、あくまで録音されている音をそのまま再生することを重視している印象を受けました。つまり、量感よりもステレオ・イメージと解像度を極限まで追求した音ということです。
もしかするといま市場に流通しているヘッドホンの音に慣れていて、Austrian Audioの音に初めて触れた方は、この低域に不足感を覚えるかもしれません。でも聴き込んでいくと、「ありのままの演奏」という意味での正解は、Austrian Audioのサウンドにあることに気づくはずです。とにかく、ストイックなまでに正確。一切のにじみや強調感を排除したサウンドからは、演奏者のテクニックやプレイで意図したニュアンス、エンジニアの手によるサウンド・メイキングの意味がはっきりと聴こえてきます。
そんな一切の虚飾を排除すると言う姿勢は、デザインからも感じられますね。語弊を恐れずに言うのであれば、高級感等の演出は一切なし。でも、各パーツの工作精度や組み付けといったビルド・クオリティはとても高いと思います。ヒンジやケーブルの端子部といった交換の難しい箇所では、高精度な金属パーツを使ってとにかく頑丈に、イヤーパッドやヘッド・バンドなどは快適性とメンテナンス性を最重視、と言ったように、スタジオで求められる性能に特化したこのデザインには、本当に好感を持ちましたね。パッケージに使用されているマジックテープも実はケーブルバンドだったりと、どこまでも現場を考えた作りからは、一般的な高級機では得ることのできない「音の現場の最前線にいるヘッドフォン」としての満足感を得ることができます。
どこまでもフラットでストレートなサウンドと、徹底的に無駄を排したデザイン。Austrian Audioのヘッドホンからは、「現代のスタジオ・モニターとは、こうあるべき」という強いメッセージを感じることができました。まさに他のヘッドフォンでは得られないプレミアムな体験をもたらしてくれるヘッドホンだと思います。